脱毛開始!
2017年2月20日(月曜日)
昨日の発熱は治って,体調は回復.
昨夜トイレに行くと下の毛がごっそり抜けた.びっくりして,頭の毛を指で軽く挟んで引張て見ると,結構な量が抜ける.ついに脱毛が始まった.
薬剤師さんからもらっていた副作用の時期とぴったり一致.予定通りということだ.
今朝シャワーを浴びたら,ごっそり抜けて排水溝に随分と溜まってしまった.このままだとこの後始末が面倒になりそうだ.
前回の外泊時 (1月末) に短髪にしてはいたが,だいぶ伸びて来ているのと,その時の切り方が甘かったので,明日病院内で坊主にしてもらうことにした.周りの患者さんに聞くと評判は悪くて,費用が高い上に虎刈りになるらしい.私にしてみれば,どうせバラバラと抜けるのだから,見た目はこの際どうでもよい.
妻の母が,就寝中に髪の毛が飛び散ららないようにするタオル地のキャップを作ってくれた.日中のためにはニット帽や手ぬぐいを準備してあるので,見た目を機にする際にはそれを着用することにする.
現在の地固め療法の中で,後2回オンコビンを注入する.それをやめてしまってはこの治療サイクルは意味がなくなってしまうので,脱毛と手足のしびれは避け難い.
発熱
2017年2月19日(日曜日)
好中球数が100をきっている状況.明け方から寒気がして,朝6:45に検温したところ38.6℃.早速解熱剤(カロナール2錠)服用し,準備してあった抗生剤(マキシビーム)を点滴開始.
7:30には38.2℃,11:00には37.8℃,12:30になってようやく36.7℃と,熱は下がった.
12:30から抗生剤バンコマイシンも追加で点滴開始.
発熱の原因は細菌感染だと思われる.経路は色々考ありえると思うが,CV (中央静脈カテーテル) からの感染と,ここのところ下痢が続いていたので肛門に軽い痛みがあり,そこからの感染かもしれない.
今日は日曜日なので,CVの入れ替えは逆にリスクが高いので見送る.お尻に塗る薬をもらって様子を見る.
ついでと言ってはなんだが,今朝の血液検査でカリウムが低かった.このためカリウムの点滴も追加.カリウムは何かと事故が起こりやすいらしく,必ず点滴ポンプで測って入れる.なのでポンプを2台装着.病人らしくなって来た.
抗がん剤副作用のその後
2017年2月14日火曜日
「強化地固め療法」が始まって1週間.
副作用はピークを超えて,食欲は完全に回復.味覚・嗅覚が変わっていたのも,だんだん元に戻ったようだ.逆に,手先の痺れがわずかに現れた.これが重篤だと生活に支障が出るかもと心配していたが,今の所の程度は軽い.
抗がん剤治療直後は下痢だったのだが,その後一気に便秘になってしまった.酸化マグネシウムとプルゼニドを可能なだけ服用しているのにもかかわらず,お腹の動きが悪い.オンコビンという抗がん剤とステロイド(プレドニン)が便秘をもたらしているらしい.必要ならもっと強い便秘薬を使うことも考慮しなければいけない.
今後は,週に1回オンコビンを注射しながら,ステロイドとダサチニブを服用する.その効果が出るに従い,一旦は血球量が上がって,その後急速に落ちる.つまり免疫が非常に低下することになるので,日和見的な感染症に十分な注意が必要となる.
ダサチニブの最適容量
毎週火曜日の教授回診の際,教授が指摘したことに端を発したと思われる.
ダサチニブの服用量は初回の寛解導入で140mg/日, 今回の強化地固め療法で100mg/日と決まっている.さて,この量が私にとって本当にちょうど良いのであろうか?
服用後2時間程度で血中濃度が最大となると言われているが,ダサチニブの血中濃度を直接調べる検査法はない.そこで,血液検査して諸元を見ることで,適量なのかを推定したいとのことで,血液検査を行った.今まではなんとなくの140mg or 100mg/日を服用だったのか?
好中球の減少抑止
白血球の一種である好中球*1が急速に減少を始めている.2017年2月15日水曜日から,好中球の増産を促して,免疫の低下を抑えるために「ノイトロジン」*2の点滴を開始した.
24時間で250mlを点滴するために,点滴流量を一定に保つ電動ポンプを装着.
強化地固め療法の始まり
あー,気持ち悪い.
今週は入院して以来,最大・最悪・最長の週だった.いろんなことがあって,書くべきことがたくさんあるけれど,そういう時に限って書いている余裕が全くない.
今週2/7火曜日から,1ヶ月間,私の治療の第2フェーズである「強化地固め療法」が開始された.
抗がん剤投与初日(2017年2月7日火曜日)
これから3日間連続で,抗がん剤を中央静脈カテーテル(CV)から投与する.
1日目が一番大量で,以下の薬剤を順次入れていく.
- カイトリル: 抗がん剤の副反応で吐き気が出るのを抑える薬.無色透明.11:00から30分.
- エンドキサン: 抗がん剤.無色透明.11:30から3時間.
- 腰椎から (後述)
- メソトレキセート
- デカドロン
- ダウノマイシン: 抗がん剤.毒々しい赤色.15:00から1時間.
- オンコビン: 医師がCV経由で注入.1分.
このほかに,内服薬として
を朝・昼に分けての服用開始.
事前に以下のような副反応が予想されると教えられていた.
- 食欲不振・吐き気
- 不眠
- 胃部不快感
- 出血性膀胱炎
- 発熱
- 便秘
- 下痢
- 浮腫み・呼吸苦・皮疹
- 手足のしびれ
- 脱毛
- 白血球減少
- 赤血球減少(貧血)
- 血小板減少
ダウノマイシンが真っ赤な色をしており,尿にもこの色が出る.血尿のように見えるかもしれないが,薬の色である.出血性膀胱炎と区別がつきにくい.
腰椎穿刺 (2017年2月7日火曜日)
脳を含む中枢神経は膜に覆われていて,抗がん剤が届きにくい.先月1ヶ月の寛解導入治療で,ステロイドとダサチニブを服用して来た.ステロイドは脂溶性であるため脳膜を透過するが,ダサチニブは水溶性で透過しにくいのだそうだ.脳膜内に白血病細胞が「逃げ込んで」しまっていないか,腰椎穿刺*1を行って,脳膜内に注射器の針を刺して腰椎クモ膜下腔から髄液を採取して検査する.この時同時に,膜内に抗がん剤を注入する.
中枢神経は脳から背骨の中を通っていて,腰の近くでは細かく分かれた「馬尾神経」と呼ばれる形状になっている.腰椎穿刺ではこれを腰骨の間から針で刺す.
エンドキサンの注入中,14:30に開始.ベッドの上に背中を丸めて横になり,医師が場所を確認,消毒して,布をかけられて,麻酔して,針を刺す.麻酔の針を刺す時以外は痛みはない.ほんの10分,15分で終了.1時間ほどは,枕無しで横になって安静にしている.
採取した髄液を見せてもらったが,薄い黄色味がかった綺麗な透明のサラサラの液体であった.重篤な場合これが濁っていることもあるそうだが,見た目に問題はなさそうだ.
同時に次の抗がん剤も注入した.その後特に副反応等は感じられなかった.
- メソトレキセート
- デカドロン
初日が終わって,多少の胃部不快感は感じられるものの,これなら楽勝か?という出だしであった.
ここまで順調.脱毛等の目に見える反応も全くない.
唯一の変化としては,尿が出ない.自覚的には何も問題がないが,前日は3リットル以上の尿量があったのに,この日1日で500ml以下の尿量であった.その結果,午後の体重が前日より3kg増加し,73kg台となった.
抗がん剤投与2日目(2017年2月8日水曜日)
いつもの朝食を,いつものように食べ始めたのだが,胃がもたれている.これまで病院食を全て完食して来た私は,少し無理をして食べてしまったようだ.7割がた食べたところでギブアップ.もっと早めにやめておくべきだったかもしれない.
今日は以下の投与を受ける.
- カイトリル: 10:30から
- ダウノマイシン: 11:00から
- プレドニン (内服): 朝・昼
吐き気とはちょっと違うだが,ひどく胃がもたれる.倦怠感.気力がない.吐きに行くほどの力も出ない.ただただ横になって時間をやり過ごす.頭痛はない.
この日の昼食以降は何も食べられなくなった.持っていたゼリーの類をなめたり,冷たいお茶を飲むだけ.毎日飲んでいた熱いお茶も飲む気がしない.辛い.1日が長い.
尿が出なくて利尿剤を使うかどうか検討していたところ,この日の午後から急に尿量が回復.結局1日で5リットル以上出た.その結果,体重もほぼ元に戻った.人の体重の増減は,だいたい水分なんだな.
抗がん剤投与3日目(2017年2月9日木曜日)
朝から最高に辛い中で,今日も昨日と同じメニューが予定されている.
昨日に続いて,激しい胃もたれ.胃の中に何が残っているのかわからないが,胃が動いておらず,腹の中身が腸に下っていかないような感覚がある.そこで,ダウノマイシンのあとで「プリンペラン」という吐き気どめの静注を14:00くらいから受けた.この吐き気どめは,お腹を動かす作用があるとのことで,胃もたれを解消してくれるかもしれない.
効いたかもしれないし,効いてないのかもしれない.判らないけれど辛いので,夕方18:00からもう一本プリンペランを追加.
いつでも吐けるように枕元にお盆を置いて寝る.朝からほとんど何も食べていないので,吐けるものは大して腹には入っていないのだが.しゃっくりが時々出て止まらなくなる.
医師からは山場は越えたので,吐き気は薬でコントロールして,便秘にならないように注意とのことである.酸化マグネシウム,プルゼニドという下剤を併用して,下痢ぎみに調整してある.
明け方の4時ごろ.ちょうど尿に起きたタイミングで,隣のベッドの若者が「しゃっくり」を始める.朝まで寝られそうもない.何しろ1日が長い.
抗がん剤投与翌日(2017年2月10日金曜日)
今日はもう抗がん剤の投与はない.しかし朝から何も食べられず.胃もたれ感というか,吐き気というか,倦怠感との戦い.
胃の中は空っぽではあるが内服薬も服用.プレドニンは錠数が多い(朝昼11錠ずつ)ので服薬が大変だ.今日からダサチニブ(スプリセル)100mgも追加になった.
午前11:30ごろ,面会時間外にも関わらず,父が来訪.近くの病院に検査に来た帰りだそうだ.小さなパックに小分けになった栗羊羹を持参してくれた.甘くて食べやすくカロリーがあるので,一ついただく.
午後から少し元気が出た気がして,Macを開いてみると,アシスタントから至急事務的な処理が必要な案件がメールされて来ていた.古いメインフレームシステムを使った承認プロセスらしく,パスワードの再設定からスタート.パスワードの再設定にはLotus Notesを使ったワークフローが必要で,その初期化のためのデータベース設定から開始.これは長い道のりだ.MVSにログインするにもMacでのエンターキーの押し方を忘れてしまった.色々試して発見.fn+Returnだった.久しぶりにMVSの端末を叩くもなかなかうまくいかない.アシスタントにガイドをもらいながらなんとか処理を完了.少しだけ気が紛れたかな.
氷枕をもらって頭を冷やしながら,中島みゆきを聴きつつ就寝.
中央静脈カテーテル
血小板数が減っているので様子を見ていたが,このまま次の治療に入らないのも白血病がぶり返してしまう可能性があり,リスクが高いという.そこで週明けの2017年2月7日から治療の第2フェーズ「強化地固め療法」を開始することになった.
その準備として,中央静脈カテーテル (Central Venous Catheter; CV) *1 を挿入する.CVとは右首の下あたりからカテーテル(管)を挿して,その先端が心臓近くの太い血管に届くようにしたもので,腕などの静脈にカテーテルを指す普通の点滴静脈注射 (Intervenous Drip; DIV) *2 と比べて,高濃度の薬剤を投与することが可能であり、また血管外への逸脱を起こしにくく確実性の高い投与経路となる.
←こんな感じ.
これを指す際には,超音波エコーで静脈の位置を確認,マジックで印をつけた上で針を刺す.すぐ近くには頸動脈も走っているので,結構な時間をかけて場所を探っていた.針を刺したらそこからガイドワイヤーを入れ,そのワイアーに沿ってカテーテルを入れる.首の外に出たカテーテルは皮膚に糸で固定する.ちゃんと入ったかどうかは,X線写真を撮って確認する.
施術自体は皮膚に麻酔を打って行うので (麻酔の注射以外は) 痛くない.しかし施術後は皮膚が吊れて体の姿勢を変えると痛みが走る.特に首や頭は動かせない.最初にくしゃみした時はひどく傷口に響いた.
でもだんだん慣れてくるもので,1日半経った現在はだいぶ馴染んできて,首を左右に降っても大丈夫になった.
ベナンバックス吸引
先日,ニューモシスチス肺炎 *1 を予防するための薬「バクタ配合錠」の副反応で発熱・発疹が起きてしまった.この薬の代替として,2017年2月1日に「ベナンバックス」という薬を吸引した.
まずベナンバックスの吸引に先立って,「ベネトリン」*2という薬剤をおよそ5分かけて吸引する.ベネトリンは気管支喘息の治療に使われる末端の気管支を拡張する薬でベナンバックスの吸収を助けるために用いる.
5分程度の休憩ののち,ベナンバックスを5分毎に{ 座る,右向きに寝る,左向きに寝る,仰向けに寝る } と体制を変えながら,所定の量がなくなるまで繰り返し吸引する.
まず,ベナンバックスは不味い.吸引するもので飲んではいけないのだが,吸引するためには口の中を通さなければならない.当然,舌や喉の上を通るのだが,苦いというか舌が痺れるというか.姿勢を変えるたびにうがいさせてもらったが,その後丸一日喉が痛かった.
また,ある程度の量を飲み込んでしまったため,胃腸の動きが悪くなったように感じる.翌日は便通が悪くなっていた.
ニューモシスチス肺炎 (Pneumocystis pneumonia; PCP) は,AIDSの典型的な症状の一つ「カリニ肺炎」として知られる肺炎で,正常な免疫能力を持つ人が発症することは稀であり,免疫低下時に発症する日和見感染症である.最も AIDS で発症する PCP とそれ以外で発症する PCP では,病原体は同一でも症状は大きく異なる.AIDS 以外で発症する PCP は足が速く(1週間くらいで進行),予後が悪い(死亡率30〜35%).このため白血病の治療ではバクタやベナンバックスによるPCPの予防が必須となる.
この病気の病原体はニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)と呼ばれる酵母様真菌*3である.かつては原虫 (単細胞の寄生虫)*4 に分類されていたが,遺伝子解析の結果菌類であることが判明した.この菌は肺以外では増殖せず,環境中にも発見されない.感染経路は解明されていないが,無症候性のキャリアが感染源となるという説が有力である.
ベナンバックスは月に1回吸引すれば良いそうだ.