Ph+ALL日記

フィラデルフィア染色体陽性白血病と闘うIT労働者の記録

再発・難治性急性リンパ性白血病の治療方針

このブログのタイトル通り、私の病気はフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)でした。

2016年12月に発症・入院し、ステロイドチロシンキナーゼ阻害薬*1抗がん剤による寛解導入、さらに放射線治療などの前処理を経て、2017年5月に臍帯血移植して生着。2017年8月に退院しました。

その後、2年ほど順調だったのですが、2019年11月に行った経過観察の骨髄検査で再発が判明。一旦1ヶ月くらい入院して、BCR-ABLに使えるチロシンキナーゼ阻害薬を変えながら*2、途中小さな問題はあったものの、効き目を見つつつ過ごしてきました。

しかし、2021年4月になって、ついにこれらの薬では抑えきれないスピードで病気が勢いづいてしまったというわけです。再々入院です。

新しい治療法

さて、再発して万事休す、もう手詰まりかと思いきや・・・初回時の入院時2016年〜2017年から4・5年経って、当時はまだなかった治療法がいくつか生まれている模様。医師から聞いた話やら、調べた話を書いてみます。これらはB細胞性のALLに適用できるらしい。以下は素人の生半可な理解です。リンクをできるだけ張るので、正確なところは原典をあたってください。

  • CAR-T(カー・ティー)細胞療法: ノバルティスファーマの商品名は「キムリア」。2019年5月に健康保険適用になっている。患者の体から自身のリンパ球の一種である「T細胞」を取り出して、白血病がん細胞を攻撃するように遺伝子を組み換えた細胞「CAR-T細胞」を作り、体に戻す治療法。CAR-T細胞が、白血病がん細胞を攻撃して治してくれる。自分の免疫細胞をサイボーグに改造して体に戻すというSFみたいは話。これで恒久的な治療になるという話もある。採取した細胞を製薬会社に送って遺伝子を組み換えてもらうのに1〜3ヶ月かかる、薬価が約3,500万円もする、重篤な副作用(サイトカインストーム、神経毒性など)があるらしい。これが適用できるのは25歳までの人で、残念ながら私は対象にならない。その明確な理由はわからないが、効果が期待できるのが若者だけだということなのだろう。
  • 抗CD22抗体薬物複合体製剤イノツズマブ・オソガマイシン: ファイザー社の商品名は「ベスポンサ」。2018年4月に発売されている。白血病細胞に生えている「CD22」というマーカーをターゲットにした抗体に、抗がん剤カリケアミシン」を結合した薬。この抗体がCD22が表面に出ている白血病がん細胞を見つけて取り付き、細胞内部に入り、抗がん剤を放出して、がん細胞を破壊するという仕組みらしい。CD22はほぼ全てのB細胞性ALLがん細胞の表面に存在するマーカー。標準的な治療では、1時間ほどかけて静脈注射する。これを1週間の間隔で3回実施する。ちなみに薬価は約130万円。1セットの治療(点滴3回)で約500万円なり。この治療は寛解導入のための治療と考えられており、完治を目指すなら、造血幹細胞の再移植が必要となる。
  • 二重特異性T細胞誘導抗体ボリナツモマブ: アステラス製薬の商品名が「ビーリンサイト」。白血病がん細胞に生えている「CD19」というマーカーと、正常なT細胞には生えている「CD3」の橋渡しをしてくれる抗体で、この橋渡しのおかげでこれまでT細胞に見逃されていたがん細胞に患者自身のT細胞がくっついて、がん細胞を破壊するという仕組みらしい。ボリナツモマブを4週間持続的に点滴静注した後、2週間休薬するというのが1サイクル。これを最大5サイクル繰り返すとか。大体1サイクルで7〜800万円かかるらしい。

直近、私が使えそうなのは「ベスポンサ」か「ビーリンサイト」ということだな。

私の治療法の選択

さてどちらをどういう根拠で選ぶべきか?妻にも出席してもらって、長時間に渡り医師から説明してもらった。

正直わからないので、医師のお薦めを選ぶしかない。で、その結果「ベスポンサ」を選択することにした。

一つのわかりやすい理由は、現在白血病細胞がどんどん増えている中で、効果が出るまでに時間がかかる治療は選びにくい。すぐに治療が1サイクル実行できて、効果が観測できるのはベスポンサのメリットに見える。

君に決めた!

じゃあ、いつから始めるか。これからゴールデンウィークに入るけど、病院の体制としては、連休明けが安全な気がするが、病気が進んでしまうリスクもある。話し合った結果、すぐに始めるということに決めた。

 

ベスポンサの副作用

新しい薬なので、気になるのは副作用。調べてみた。

  • 肝障害。静脈閉塞生還疾患(VOD)、類洞閉塞症候群(SOD)に特に注意が必要だそうだ。肝臓の血管が詰まって血流が悪くなり、肝機能が低下するということらしい。死亡した例もある。
  • 骨髄抑制。これは白血病の薬に漏れなく付いてくる副作用だな。血小板の低下で出血しやすくなり、白血球の低下で感染しやすくなり、赤血球が低下して貧血目眩がでる。
  • インフュージョン・リアクション(サイトカイン放出症候群)。T細胞などの中の活性化されたサイトカインが血中に大量放出されて起こる。サイトカインと白血球がぐるぐるとポジティブフィードバックを起こすと、サイトカインストームと呼ばれるそうで、なんだか名前がカッコいいが命に関わる。新型コロナでも起こっているとかいう報告があったな。
  • 腫瘍崩壊症候群。がん細胞が急激に壊れることで、細胞内の物質が大量に体内に蓄積して、尿酸増加、電解質バランスの崩れなどで、症状が起こる。
  • 膵炎。理由は聞かなかったが、消化腺である膵臓に炎症が起こるのだそうだ。

どれも血液検査などでよく観察して、対症療法を行うってことだと思う。

これがうまくいったら、この続きが書けると思う。

*1:チロシンキナーゼ阻害薬(TKI): 私の白血病の細胞にあるフィラデルフィア染色体に固有のBCR-ABLという遺伝子に取りついて、細胞増殖を遮断する分子標的薬。

*2:私の知る限りPh+ALLに使われるのは3種類。第一世代「イマチニブ」、第二世代「ダサチニブ」、第三世代「ポナチニブ」。