抗がん剤の副作用が脳にきた!(続き)
前回書いたように,突如としてまともなことは何もできない状態になってしまった.
発症後,医師や看護師に入れ替わり立ち替わり,同じことをさせられた.
- 両腕を前に突き出して目を瞑り,しばらくしてどちらかが下がってきていないか.
- 片目で上下左右に見えないところがないか.
- ベッドに寝て膝が立てられるか.
- 足首が動くか.
- 力を込めて握手できるか.
- などなど
これらは体に麻痺がないかを調べるテストなのだと思う.幸いこれらのテストはどれも問題がない.しかし運動を統合する必要がある動作,例えば,歩行したり,発話したりがうまくできないのだ.
歩こうとすると,立ち上がることはできるのだが,力の加減がわからず,立つというよりは飛び上がるようになってしまったり,一歩の足を出せば歩幅が大き過ぎたり,左右にふらついたりと,捕まるものがないと危なくて仕方がない.
コップの水を飲もうと思っても,コップを持った手が口にこない.どこか明後日の方に行ってしまいそうになり,口の前で保持できない.
何より発話できない(ひどく呂律が回らない)のは本当に困る.認知力がなくなった人のように見えてしまう.「お・も・て・な・し」と細切れに切った言葉は喋ることができるが,普通のテンポでは言えない.「なまたまご」が言えない.「パピプペポ」「ラリルレロ」「カキクケコ」もまともに言えなかった.
しかし頭の中では以前と全く変わらず思考できている.ものを思い出すことも,言葉を探すことも,(本人による自己認識なので,客観的に正しいかどうかは不明だが)以前と全く変わりない.そのような状況で,看護師には「今日は何日かわかりますか?」と聞かれる.「3月29日水曜日」と即答するも,口はスラスラとは動かない.
続いて,以下のようなテストをやらされた.
- 左右の人差し指で何かを指差した後,自分の鼻を指差す.
- 左の足の踵で,右の足の膝をポンポンポンとリズムよく叩く.
- 左右の手を裏表にひらひらと素早く振る.
こういった単純なことがうまくできない.これらは複数の筋肉を協調して動作させることが必要で,それができないことを「運動失調」と呼ぶらしい.また,その調整を行なっているのは小脳なのだそうだ.よって,どうやら私の症状は「小脳性運動失調症」であるらしい.
診断はついたみたいだが,これは治るのだろうか.治らなかったら大変だ.無事に白血病が完治したとしても,要介護の状況が残ることになってしまう.
実際,一人ではまるで何もできない.
このままだと,ホーキング博士みたいな専用の入力デバイスを作らないと行けなくなるなと思った.
入院中は看護師さんにお願いすれば,ある意味不自由なく過ごせてしまうのだろうが,大人の人間として,自分のことは自分でやりたいという自尊心がある.いきなり下(しも)の世話まで人に依存しなければならない,自分の生物としての能力の低下に愕然とし,涙が出た.